今月の表紙 電気泳動の解析シリーズ・6
低温保存により出現する異常LDH症例の解析Ⅱ
堀井 康司
1
1慶應義塾大学医学部中央臨床検査部
pp.566-568
発行日 2003年6月15日
Published Date 2003/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542100955
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前回に引き続き,当検査室職員A君に認められた異常LDH(乳酸脱水素酵素)について解析した結果を紹介する.前回述べたように,A君の血清LDHは採血直後には異常は認めないが,一度低温保存すると図1に示すようにLDH1からLDH3にかけて異常な活性が出現した.前回は,この異常活性は確かにLDHであるがLDHそのものの異常ではないこと,正常LDHより高分子量であり,血清中の何らかの成分と結合したために出現した異常と考えられたこと,また分子量的に複雑な異常であることから単一の蛋白との結合ではないことが推定されたところまでお話しした.
さて,LDHはH型サブユニットとM型サブユニットが組み合わさって五量体となる構造をとっているが,今回検出された異常LDHは低温処理により初めて形成が開始されると考えられたため,あらかじめH型優位またはM型優位の状態を作成しておくことにより結合LDHを解析できる可能性がある.このため,次にM型LDH優位であるヒト肝ホモジネート上清とH型LDH優位であるヒト溶血液を室温で症例血清に添加し,低温処理する実験を行った.実験条件の詳細は割愛するが,図2に示すようにヒト溶血液添加では症例と同一の変化であったが,ヒト肝ホモジネート上清添加ではLDH1,2間の異常バンドは著減し,代わりにLDH3の陰極側に異常バンドが出現しLDH2,3間にテイリング状の異常活性が検出された.ヒト肝ホモジネート上清の代わりにLDH5がほとんどである急性肝炎患者血清を用いてもこの変化は同様であり,この現象はM型LDHの添加による変化と考えられた.つまり,H型異常とM型異常が存在するようなのである.
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