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1. 市中肺炎で最多の起因菌である肺炎球菌
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はグラム陽性球菌であり,細胞壁の外側に多糖からなる莢膜をもち80以上の型に分類されている.肺炎球菌は日本を含む諸外国での市中肺炎での起因菌のうちで30~50%と最多を占めている.本号で別に取りあげられているレジオネラと同様に,肺炎球菌による肺炎は重症化するとしばしば致命的となり,特に血液培養で陽性となった場合に死亡率が上昇することが報告されている1).さらに,最近はペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae;PRSP),ペニシリン中等度耐性肺炎球菌(penicillin insusceptible Streptococcus pneumoniae;PISP)が臨床分離検体の約半数を占め,ペニシリンなどの抗菌薬への耐性化が問題となっている2).
2. 肺炎球菌の検査上の問題点
特に小児では肺炎球菌はヒト上気道にも常在することがあり,喀痰培養で肺炎球菌が検出された場合でも即肺炎の起因菌とは断定できない.気道由来の検体では品質が問題となり,肺炎患者であっても上気道由来の検体が採取された場合は培養では検出されない可能性もある.また,肺炎球菌は自己融解酵素autolysinを有し,検体の取り扱いによっては,検体中の菌が死滅してしまう.日本の検査室での肺炎球菌の喀痰からの検出率は約5~10%と欧米の30%より低いとされる2).肺炎球菌の培養同定には2~3日を要する.実際には抗菌薬の投与後に喀痰の検査がなされることも多く,これは検査の感度を低下させる.肺炎球菌の検出の感度を高めるためPCR(polymerase chain reaction)法3)などの検査法が検討されたが,コストや手間といった点から普及していない.血液培養は特異度の高い検査であるが,肺炎球菌の血液培養の検出率は10%程度4)と高くない.肺炎球菌はグラム染色で陽性の双球菌連鎖状に特徴的である.グラム染色は,迅速に起因菌を検出できる点は優れているが,手間やコストなどの点から必ずしもすべての医療施設で施行されているとは限らない.従来わが国でもよく利用されていた1993年のアメリカ胸部疾患学会(ATS)の市中肺炎のガイドライン5)では,診断に必須ではない,としている.日本や諸外国での市中肺炎での起因菌の同定率は40~70%前後であり6,7),市中肺炎の患者の30~60%では起因菌不明のまま治療を行わざるを得ないが,このような患者のなかにも肺炎球菌肺炎が多数含まれていることが想像される.起因菌が不明のままの治療は失敗の一因であり,また,広域スペクトルの抗菌薬の濫用に陥りやすい.
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