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1.敗血症(セプシス)の細菌学的診断の位置
敗血症(セプシス)とその関連病態〔セプティックショック,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC),急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS),多臓器機能障害症候群(multiple organ dysfunction syndrome;MODS)を含む〕は,一般に予後が悪く,また死亡率も高いので迅速かつ的確な診断が行われ,患者の予後を高める治療につなげなければならない.
このような緊急診断を要する敗血症の細菌学的検査には,従来から患者血液を用いた血液培養法が実施されている.血液培養法の改良の方向は,いかに迅速に感度よく細菌を分離・同定するかに主力が置かれてきた.しかし現状では,培養法に基づいた診断は日数を要し(分離に2~3日以上,同定・薬剤感受性検査を含めれば3~5日以上),しかも,その陽性例は10%前後と低い1).
このように,血液培養法を基礎とした菌血症あるいは敗血症の診断方法では感染症治療に十分には対応しきれておらず,新しい感染症の概念に立脚した迅速診断法が常に要請されてきた.
1990年代初頭,アメリカではBoneらがSIRS(systemic inflammatory response syndrome;全身性炎症反応症候群)という炎症概念をsepsis(敗血症)の病態に導入することで(SIRSの概念に基づいた敗血症は日本の敗血症定義とは必ずしも同一ではなく,セプシスと区別する),敗血症(sepsis)および感染症とSIRSの相互関係を定義づけた2)(図1).この概念によって,細菌などによって起こる感染症が侵襲(この場合septic SIRSと呼ぶ)という炎症メカニズムとして把握され,敗血症の治療はこの炎症反応をいかに初期で抑えるかに重点が移っている.そこでは敗血症の診断には菌血症の確定診断(血液培養陽性)を必須としなくなっている.日本でもこのような考え方は緊急医療分野を中心に浸透し始めており,敗血症の病態を把握できるような迅速細菌診断法が考案・実施されつつある.ここでは,感染防御初期の主要なディフェンスラインである好中球などの敗血症へのかかわりに着目した,筆者らの開発した白血球中細菌核酸同定検査法を紹介する.
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