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はじめに
蛋白質やDNAなどの生体高分子をチップ化,マイクロアレイ化するという試みは,1990年代中旬にStanford大学のBrownらによりDNAマイクロアレイが現実のものとなったことを契機として急速に広まりつつある.蛋白質やDNAなどの生体高分子を基板に固定化するという考え方は,プレートを用いたELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)分析や各種ブロッティング法などのように従来から存在していたが,高密度マイクロアレイ化することで,処理可能なサンプル数,感度,必要とされる試薬・サンプル量などの観点から劇的な性能向上が見込まれ,生化学・化学分析の手法を大きく変える原動力となっていることは周知の事実である.
こうしたマイクロアレイ化・チップ化の技術は,従来の生化学・生物科学分野の機器とは大きく異なる分野の技術を取り入れて大きく発展している.これらのマイクロアレイ,チップ作製技術は大きく分けてスポットなどを形成するデリバリー技術,蛋白質やDNAなどのサンプルを固定化する基板材料などの技術,そしてこれら固定化されたチップにより分析を実行しシグナルとして検出する検出技術に大きく分けられる.初期のDNAチップ形成に用いられた手法は,スポッティング法と呼ばれ,ペン先状のピンを利用して液滴を置いてゆくという手法であるが,現在では各種インクジェット技術や基板上でのフォトリソグラフィを利用した光化学反応の利用,LSI(large scale integration)製造技術の利用など精密機器,半導体などの様々な技術が融合してマイクロアレイ形成技術を支えている.蛋白質チップ,特に抗体(あるいは抗原)マイクロアレイの場合は,DNAチップのように基板上での合成は不可能であり,かつ蛋白質の活性を維持する必要があることから,DNAチップとは異なる技術開発を必要としている.また,これらの応用技術の1つとしてマイクロ流体チップが大きな注目を集めている.本稿ではこれらの技術について概説するとともに,筆者らが研究を進めているエレクトロスプレーデポジション法によるチップ形成技術とマイクロ流体チップを組み合わせた抗原抗体反応検出システムについて解説する.
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