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はじめに
法医鑑識の分野において検査対象の生物試料がヒト由来であるか,あるいは他の動物由来であるかを識別する人獣鑑別は重要な検査項目の一つである.ABO式血液型抗原が主たる個人識別のマーカーであった頃,資料からABH抗原を検出したとしても,その検査を実施していなければ,それは物的証拠にならなかった.なぜならば,それらの抗原は自然界に遍在しているからである.
従来,ヒトの証明には抗原抗体反応を利用した血清学的手法が用いられてきた.現在は,イムノクロマトグラフィーの原理に基づいた臨床検査用のヒトヘモグロビンなどの判定試薬・キットが高感度で迅速な検査法として利用されている.
ヒト以外の動物種を決定する必要性も時折あるが,各種動物に対応する特異性の高い抗血清は市販されていない.したがって,種々の環境下にさらされる生物試料を取り扱う検査者にとって,抗ヒト血清に対して陰性反応を呈した場合,その結果がヒト以外の動物に由来することを示すものなのか,あるいはヒト由来であるにもかかわらず汚染や腐敗などによって判定不能に陥っているのかを判断することは容易ではない.さらに,このような手法は,血液,唾液,精液などの体液やその斑痕に対しては有効であるが,微細な骨片,歯牙片,毛髪(獣毛)への応用は困難であり,これらの硬組織資料については熟練を要する形態学的手法によって判断していた.
近年の法医学領域へのDNA分析の導入によって,上記の問題点を解決する種々の人獣鑑別法が報告されている.DNA分析を応用した鑑別法の特徴は,①ヒトの証明,②ヒト以外の動物種の推定・識別,③体液斑痕に限らず硬組織への応用,④極めて微細・微量な試料からの検出が可能なことである.
本稿では,人獣鑑定の現状について概説するとともに,われわれが検討してきたミトコンドリアDNA(mtDNA)のD-loop領域の解析に基づく識別法を述べる.加えて,各種事件現場から持ち込まれる未知試料の鑑定事例について紹介する.
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