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1. ミトコンドリア病におけるtRNA研究の必要性
ミトコンドリア病においてtRNA分子の研究が必要とされるようになったのは,数多くの症例でミトコンドリアDNA(mtDNA)上にコードされるtRNA遺伝子の変異が見出されたからである.これらの変異はMITOMAP(http://www.mitomap.org/)で一覧できるが,現在までに約100箇所のtRNA遺伝子変異が,疾患に関連する変異として報告されている.これらの変異のなかには,外来細胞由来の核と患者由来のmtDNAを融合させた人工融合細胞(サイブリド)を用いた研究により,ミトコンドリアの呼吸活性や蛋白質合成の異常を引き起こす直接の原因であることが実験的に証明されているものも多い.しかし,tRNA遺伝子変異と疾患とのつながりが多く判明してくるのに反して,変異がどのようにtRNAの機能を阻害しミトコンドリア機能異常を引き起こすのか,その詳細な分子レベルでの機構は未解明であった.その大きな要因として,ミトコンドリアtRNAは細胞内に非常に微量しか存在せず(細胞質のtRNAの100~1,000分の1),変異をもつtRNAの構造・機能の解析が技術的に困難であることが挙げられる.
tRNAは,mRNA上の遺伝暗号をもとに蛋白質を合成するという翻訳反応過程に必須の機能性RNA分子である.tRNAは対応するアミノ酸をその3′末端に結合し,リボソーム上でmRNAのコドンをアンチコドンで認識して対合することで,mRNAの塩基配列どおりにアミノ酸を重合させる役割を担っている.tRNA分子は転写後に様々な修飾を受けることによって成熟し,初めてその機能が発現する.修飾塩基は高次構造の保持や,酵素・因子からの認識に必要であり,特にアンチコドンとその周辺の修飾塩基は遺伝暗号の解読を支配する重要な役割を演じている1~3).このように,tRNAが機能を果たすためには修飾という成熟過程を経なければならないため,ミトコンドリア病発症の分子機構に迫るにはtRNA遺伝子変異をただの塩基配列の変化としてのみとらえるのではなく,成熟過程を踏まえた総合的な異常を考慮する必要がある.したがって,実際の細胞内の成熟した変異tRNAの構造・機能の解析が不可欠である.
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