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1. はじめに
ミトコンドリア病(ミトコンドリア脳筋症)は,細胞のなかのエネルギー産生の中核であるミトコンドリアの異常で脳や筋肉の機能が低下する病気である.この一病型であるMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes)は,小児期に脳卒中様の発作を繰り返し,ひいては,精神運動面の退行をきたし,早期に死に至る慢性進行性の難病である.本症における脳卒中発作の成因は,血管説および細胞機能不全説などいまだ不明な点が多い.われわれは,脳卒中発作の成因に血管説が大きく関与しているという仮説のもと,L-アルギニンを投与し,脳卒中に起因する種々の症状が劇的に改善することを発見報告した.MELAS患者では,血管内皮機能が有意に低下しており,本来もっているはずの動脈の拡張機能が傷害されていた.さらに,MELAS患者急性発作時には,血漿中のL-アルギニンや生体内での動脈拡張機能に中心的役割を果たす一酸化窒素(NO)の代謝産物(NOx)が有意に低下しており,かつADMA(asymmetrical dimetyl arginine)が相対的に増加していることがわかった.MELAS患者の脳卒中様発作急性期にL-アルギニンを静注することで,脳虚血からくる神経症状が注射後30分以内に劇的に改善した.また,脳卒中様発作寛解期の患者で,L-アルギニンを内服することで,患者の脳卒中様発作の重症度および頻度を有意に低下することが判明した.MELASに対するL-アルギニン療法は,発作急性期の静注による特効薬的効果のみでなく,発作間歇期の予防的内服薬剤としても期待される.
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