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1.はじめに
野球で名手揃いの内野守備陣を形容する言葉として“水も漏らさぬ鉄壁の守備”という表現をよく耳にする.われわれの腎臓は老廃物を排出する一方で大切なものは保持するという二面性をもった極めて精巧な働きをしている.すなわち1日に腎糸球体から約160l前後の“水”(原尿)をボーマン囊に濾過しながら1.6l前後にまで濃縮された排出尿中にはわずか150mg程度以内の蛋白質しか漏らしていないという“鉄壁の守備”ぶりなのである.この機能が破綻して蛋白質のような大きな分子まで無視できないほど尿中に漏れ出てきた状態がいわゆる(異常)蛋白尿であり,腎臓病の最も日常的で客観的な指標であることは先刻ご存知のとおりである.最近,それに加えて蛋白尿そのものが実は結果的に尿細管・間質の障害を引き起こし,それにより腎臓の病変をさらに進展させ,その働きをさらに低下させる悪玉であることが通説となった.したがって,蛋白尿を抑えれば,それ以上腎臓の機能を悪化させないですむことが期待される.この“腎不全状態への進展阻止”こそは,われわれ腎臓学に携わる者に課せられた至上命令である.そのためにまず答える必要があるのは“蛋白尿はどうして出るのか”という問いかけであり,それは,腎臓における濾過機能はどのようにして正常に営まれているのかという問いかけと表裏一体をなすものである.その正常の濾過機能に重要な役割を演じていると目されるに至ったのが臓側糸球体上皮細胞(=足細胞)であり,とりわけこの細胞の足突起間に薄くはられたスリット膜と呼ばれる膜様の構造物である(図1).この膜は流し台の細かい目皿のように食器の汚れ(老廃物)を多量の水とともに洗い流しながら,失いたくないものはせき止める大切な仕事をしている.このスリット膜の最重要構成分子の一つがネフリンである.本稿では蛋白尿とネフリンについて最近の話題を中心に紹介することとする.
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