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1.はじめに
花粉症を含む,鼻アレルギーは確実な根治療法がなく難治性だが,命にかかわることはない典型的な慢性疾患である.現在,スギ・ヒノキ森林は,北海道と沖縄を除くわが国の国土面積の18%を占める.その森林が産生する花粉を抗原とするアレルギー性鼻炎は国民の20%が発症しており,さらに20%が未発症抗体陽性者であり,早春の同時期に国民の20%に上気道過敏症状が出現する.しかも世界最大のメガロポリスで,世界経済の中心でもある関東・東海地方に花粉飛散が多く,特に20~50歳代の生産世代に好発するため,都市型自然災害ともいえ,社会経済活動への影響の大きさから考えると世界的にみても特異的な風土病といえる.しかし,同様に空間的時間的に限局された疾患であるインフルエンザが,時として致死的で恐れられているのに対し,患者には疾患としての恐怖感や重症感が乏しい.
スギ花粉症そのものが知られていなかった20年前には,季節はずれのくしゃみ,鼻閉,水様性鼻汁をきたした患者は不安になり,医療機関を受診した.しかし,近年では膨大なマスコミ情報が毎日のように流れ,民間療法を含めありとあらゆる医療情報が氾濫するため,患者意識からも疾患としての恐怖感が薄れるうえ,毎年の経験から症状も数週間で合併症もなく収まることを知った患者は,年々医療機関を受診しなくなり,未治療で我慢する患者やマスクや薬局の市販薬(OTC)に頼る患者が最も多くなっている.医家向け薬剤の市販薬への転換(switch OTC)も進み,インタールも抗ヒスタミン薬と血管収縮薬の合剤として薬局で売られている.そのため,首都圏での調査でも,医療機関を受診する患者は35%であり,今後医療費の患者負担が増えればさらに医療機関離れは進み,大量飛散年などOTCでは無効なときだけ受診するようになるだろう.つまり,今後患者や社会が期待している花粉症治療とは,時間的肉体的経済的に最小の負担で長期間症状を制御することに尽き,対症療法であろうが原因療法であろうが大した問題ではない.そのような観点から考えると,減感作療法も時間的余裕のある一部の患者に限られた治療となるだろう.またステロイド以外の薬物療法も次第に医師の手を離れ,OTCに変わっていくだろう.さらに入院の必要な手術療法などの肉体的負担の大きな局所療法も,根治性がなければ患者に支持されるとは考えにくい.現時点での費用対効果を考えると,花粉症の手術治療は,保険治療の対象となりone day office surgeryとして行える各種のhot knifeによる下鼻甲介粘膜表層の蒸散術と,電極刺入による粘膜固有層の減量手術に限られる.ここ数年,各種hot knifeはいくつかの革新的技術も手伝って急速に安価となり,かつ高性能になった.中空誘導式の炭酸ガスレーザーやアルゴンプラズマコアギュレータ(APC)も300万円以下になった.
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