主張
医療にも豊かさを
I
pp.209
発行日 1992年3月1日
Published Date 1992/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541903736
- 有料閲覧
- 文献概要
平成3年度の「国民生活白書」には,豊かさをより一層実感できる社会生活の実現が主たる課題とされている.長期に渡る景気上昇により国民の生活水準は世界に例を見ない早さで高いレベルに達し,その間,人々の意識の中に経済面以外の生活をもっと大切にしようという意識が強くなってきた.豊かさの指標の1つに生活の「安心」と「安全」が取り上げられているが,安全な社会と健康水準という点でも,現在の日本は世界第1位と言える.ところが,今日の我々日本人にとっては,それらは当然のことであり,その価値はなかなか認識されにくいようであるが,教育制度等と同じように高い水準を維持するためには多くの責任と努力と共に経済的負担が必要とされる.また,医療は日本の行い得る国際貢献の代表的事業であり,国内的に見ても,国際的な意味からも医療制度の充実は今後ますます重要性を増す.
現在,国民医療費は年間約20兆円で,国民総生産の約5%に当たるが,先進諸国の中では米国の12%等と比較して最も低い数字である.日本は紀元2020数年には人類史上例を見ない高齢社会になることが予想されているが,今後それに向けて一層の医療・福祉・保健の充実が必要とされている.病院や医師の数といった,戦後一貫した量的な整備を中心とした医療政策から,現在の国民生活の水準と調和した質の高いサービスへと,更には,良質で効率的な福祉制度の確立に転換しなければならない時代となってきた.
Copyright © 1992, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.