癒しの環境
音楽と癒し
藤井 康広
1
1医療法人聖仁会藤井医院
pp.1018
発行日 1998年11月1日
Published Date 1998/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541902551
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心に残るシーン
膵臓癌の再発であと数日の命となったおじいちゃんの居間である.88歳で,もう思い残すことはない.眼の前には今は亡き若かりし頃の愛妻の写真が微笑んでいる.愛妻はにっこりと微笑み,アワビやサザエがたっぷり入っている手桶を抱えている.白いシャツが濡れて海からあがったばかりで,まぶしいくらいだ.海女さんのいでたちで,この地方,っまり日本海重油事故の舞台となったここ安島では,ひと昔前には家庭にいる女性は海女として生計を支えてきたのである.最近では,海女さんのなり手も少なくなり高齢化が激しく,若い海女さんをついぞ見かけたことがないから,その写真が映画スターのようにも見える.
辺りにはおじいちゃんの好きなクラシック音楽が流れている.眼を開けるのも億劫となっている癌末期の状態なので,写真の中の愛妻が夢うつつとなっているのだろう.おじいちゃんの顔に苦しみの表情は見て取れない.クラシック音楽がその夢を一層効果的に彩っているはずである.ベッドの脇にはほのかな香りを漂わせる可憐な花々が飾られている.
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