辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論
『絵に描いた餅』の話
古川 俊之
1
Toshiyuki FURUKAWA
1
1国立大阪病院
pp.156
発行日 1990年2月1日
Published Date 1990/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900574
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日本の人口当たり病床数は,国際的にもまずまずのところまで充実した.ところがアメニティの立ち遅れは依然として大きい.古い大学付属病院のなかには,余りにも不潔で入院したら最後,果たして生きて帰れるかと恐怖を感じるひどいものさえある.とくに患者の混雑は大層なもので,訪問者も職員も身体の接触なしに廊下を歩けない有様である.実情を知らぬ外人が見れば,日本には病人が氾濫していると誤解されそうである.ところがどこの院長先生にお尋ねしても,MRIだのDSA装置のことはとうとうと話されるが,病床当たり建築面積はいくらかという質問には,滅多に確かなお答えは頂けない.
医療水準を人口当たり医師数や病床数で表すかぎり,医療の質は分からないのは言うまでもない.しかし日本の現状には,数の上での後進性が質の向上を妨げている気配がある.病床当たり建築面積を取ると,日本の病院の苦境は明らかである.10年前には日本の病院の病床当たり平均建築面積は,わずかに35m2に過ぎなかった.これは欧米の一般病院の病棟部門だけの面積比で,病院全体の面積比はイギリスで80m2とされていた.同じイギリスの教育病院では140m2,スウェーデンの教育病院は200m2にも及ぶから,何をか言わんやである.もっとも,最近10年間にこの数値は随分改善されて,大体65m2の線に達した.
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