検証・日本医療の論点
1980年代の国民医療費増加要因の再検討—見落とされている医療機関の費用増加と患者の受療行動変化
二木 立
1
Ryu NIKI
1
1日本福祉大学社会福祉学部
pp.73-79
発行日 1990年1月1日
Published Date 1990/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900553
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●はじめに—要約を兼ねて
近年,国民医療費の増加要因が改めて注目されている.1980年代前半の老人保健法・健康保険抜本改革等の「第一次保険医療改革」と診療報酬の事実上の凍結によって,国民医療費の増加率は急減し,1983・84年度にはそれぞれ4.9%,3.8%と,2年続けて国民所得の増加率を下回った.しかし,その後,国民医療費は,再び国民所得の増加率を上回って,毎年1兆円ずつ増加し続けており,1989年度には20兆円の大台にのると予測されている.そのため,最近の国民医療費の増加要因分析では,医療費改定・人口増・人口高齢化では説明されない医療費の「自然増」の大きさが特に注目を集めている.しかし筆者は,このような議論は医療機関の費用増加という要因を見落としていると考えている.小論では,この視点から国民医療費の増加要因を再計算し,1980年代の医療費増加の約5割は医療機関の費用増加によるいわば名目的なものであり,真の「自然増」は約2割にすぎないことを明らかにする.
次に,老人医療費は,1970年代に引き続いて1980年代にも,国民医療費の増加率をはるかに上回って増加し続けているため,人口高齢化が国民医療費増加の主因であるとの理解はなかば常識化している.更に,1987年の厚生省国民医療総合対策本部中間報告以降,老人の「長期入院」が医療費増加の重要因子として注目されている.
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