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■はじめに:医療・福祉の職場において心理的安全性を育む難しさ
職場では問題は起こるものである.しかし,医療・福祉の職場では,仕事上のミスなどの問題が,職場風土により解決を妨げられた結果,患者や利用者の安全,治療やケアの質にまで影響を及ぼすことがある.米国の退役軍人病院の従業員を対象とした調査結果では,仕事上のミス(error)の報告を妨げる最たる理由は,仕返しへの恐れであった1).
このような職場では,仕事上のミスなどの問題を,嘲笑や罰を恐れずにメンバーに話すことができると感じる雰囲気である「心理的安全性」を育むことが望まれよう2).前述の調査結果では,心理的安全性のない病院は心理的安全性のある病院に比べ,従業員は仕事上のミスを報告したがらないことが明らかにされている1).それゆえ,職場の管理者は心理的安全性を職場や組織の風土として育み,メンバーが仕事上の失敗から学び,その力を発揮できるよう努める必要がある.
しかし,はたして医療・福祉の職場の多くの中間管理職がそれを実践できるだろうか.主任やリーダーといった中間管理職は,必ずしも望んで管理職になった者ばかりではない.管理職に昇進したものの,管理職教育を受講する機会もなく日々悩む中で,管理業務をしながら現場の実務を担う者も少なくない.また,地位の高い管理職ほど心理的安全性が高いと報告されるが1),中間管理職が上司と部下の板挟みの心理的安全性の乏しい環境で働いていることもある.このような状況では,中間管理職に心理的安全性を育む努力を求めても,現実的には難しいであろう.
そこで筆者は中間管理職に導かれるまでもなく,医療・福祉のケア従事者が心理的安全性について学ぶ職場内研修を開発し,無作為化比較試験により効果を検証した.本稿ではその紹介とともに,効果検証の結果を踏まえ,看護・介護のケア従事者が働き続けたいと思える心理的安全性のある組織づくりについて考えてみたい.
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