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■はじめに
ここ数年来,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)では,民間の中小病院・診療所の事業承継(医業承継)の問題に焦点を当て,継続的に調査研究を進めてきた.背景にあるのは,特に地方における後継者不在の問題である.この問題は,“黒字廃業”という言葉の流布が象徴するように,医療機関のみならず,日本の中小規模の事業者全般に共通している今日的課題1)である注1.特に,医療機関の後継者不在による廃業は,地域医療の持続可能性に直結するという意味において,さらに深刻度が高い課題2)と言える注2.かかる政策課題に対し,これまで関連する統計データを整理したうえで承継をサポートする士業の専門家や仲介業者にインタビューを行い3),医療機関経営者を対象に全国調査を実施し4),医療現場向けに承継実務の手引書の編纂5)などを行ってきた.
一連の調査研究の過程でしばしば耳にしたのが,「医業承継問題をきっかけにして,株式会社などの営利企業が持分あり医療法人の出資持分を取得し,その経営を実効支配するケースが増えているのではないか」との懸念を示す現場の声であった.ただ,それらはあくまで噂や憶測ベースの情報であり,関連する政府統計や民間の調査データなどがあるわけではない.そこで承継問題のスピンオフ研究として,まずは情報の信ぴょう性の確認と背景事情の探索を目的とし,医業経営支援を生業とする経験豊富な専門家(税理士・公認会計士)複数名を対象にインタビュー調査を実施,日医総研リサーチレポートとして公表した6).本稿では,これらの調査研究から得られた知見をベースに,営利企業が医療法人の出資持分を取得するなどの方法で医業経営に参入しようとしている実情について詳細を述べると共に,医業の非営利性を重視する立場から,医療法人制度への懸念事項について論じてみたい.
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