- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
■はじめに:新型コロナウイルス感染症対策から明らかとなった課題
新型コロナウイルス感染症への対応をめぐって,医療界に対する国民の評価が分かれている.献身的に対応した医療機関が高く評価される一方で,新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病床に対する補助金を受けながらも,その対応が十分にできなかった医療機関に対する批判の声が大きくなっている.2021年10月11日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会では「日本は欧米と比べて感染者数も死亡者数も桁違いに少ないのに,入院・外来ともに医療へのアクセスが制限される事態が発生.一方,医療機関への支援も含めた財政支出の規模と経済損失は巨大で欧米並み」であるとして,次の3つの課題が提起されている1).
①現行の診療報酬制度により,治療行為の行われない“素泊まり入院”の敢行や外来医療を入院で提供している実態.結果として平時から医療従事者の分散を招いており,新型コロナウイルス感染症患者の入院に対応できるリソースの枯渇を招き病床確保が低調に.
②外来においても,当初は新型コロナ疑いの患者の診察を断る医療機関も多く,施設療養あるいは自宅待機している新型コロナウイルス感染症患者への対応も限定的.
③医療機関への補助金について効果検証が必要であるが,補助金に関するデータの入手が困難.
この議論の中では救急対応も含めて急性期医療を十分に行う力がないにもかかわらず,経営的な動機で全般的に低密度な医療を行っている病院があることが指摘され,これらの施設が「なんちゃって急性期」であると批判された.そして,そうした低密度診療の病院が数多くあることが,全体としては病床数が十分あるにもかかわらず,東京や大阪などにおける第5波の流行時に十分な受け入れができない原因である可能性が高いと結論された.
この問題は,その後,鈴木亘氏の書籍でも取り上げられている2).この本では,①少ない医療スタッフ,②多すぎる病院,③小規模の病院,④フル稼働できない大病院,⑤病院間の不連携・非協力体制,⑥「地域医療構想」の呪縛,⑦政府のガバナンス不足,の7項目が医療崩壊を招いた容疑者として取り上げられ,検証されている.結論として,鈴木氏はガバナンス不足と小規模の病院が多いことによる病床当たりの少ない医療スタッフが真犯人の可能性が高いとしている.その上で,今回の状況を奇貨として,今後も起こりうるパンデミックや大災害にも耐えられる医療提供体制を構築すべきであると述べている.また,鈴木氏はこの本で,今回の状況下でも機能した墨田区や杉並区,長野県松本医療圏のように地域関係者のイニシアティブで適切な対応が可能であった好事例を紹介し,その横展開を提言している.
人口構造や医療資源の状況に大きな地域差がある現状を考えると,国の明確な方針が必要であることは間違いないが,各地域で実行可能な対応策を準備することがそれ以上に重要であり,実際的であろう.その意味で,上記以外のさまざまな好事例も収集し,それを組織論的に分析しパターン化することが,今後も起こりうる同様の事態に対応するためにも,早急に行われなければならない研究課題であると考える.
そこで,本稿ではこの問題意識に基づき,医師会のリーダーシップの下,病院間の連携をベースに新型コロナウイルス感染症対応を行っている福岡県北九州市の事例を紹介する.今回は全体の仕組みを記述し,次回以降,各レベルで対応を行った医療機関の事例を紹介する.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.