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■はじめに
少子高齢化が進むわが国では,昨年(2020年)2月から始まったコロナ禍によって,2020年の出生数が1899年の調査開始以来過去最少を記録し,2021年の上半期は前年同期比をさらに下回る状況になっている.これは明らかに,日本社会全体に対して質的な転換を迫っているが,「人が最大の資産である病院経営」においてはなおのことであり,「貴重な人財が活き活きと活躍できるマネジメント」の推進は喫緊の課題であろう.そして,本誌5月号の「働き方改革のための生産性向上」の特集でも,髙田氏の「病院が健康経営を行う意義」と題した論文において,健康経営推進について見直し,職員の健康増進につながる職場環境の向上にも取り組んだ結果が紹介されている.そこでは,医師の働き方改革,全職員の新卒・中途入職者数,離職者・離職率,復職リハビリテーションの進み具合の他,運動習慣の改善,ワークエンゲージメント,院内のコミュニケーションの改善なども含め,さまざまな成果が見られたという実践報告がなされており1),実際の病院経営の現場でもさまざまな試みが始まっているようである.
ちなみに,経済産業省のホームページには,健康経営について,「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え,戦略的に実践することです.企業理念に基づき,従業員等への健康投資を行うことは,従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし,結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます2)」と説明されているが,アフターコロナの時代では,この考え方ではもう間に合わなくなるのではないかということが,現在,漠然と感じられている危機感なのではないだろうか.つまり,生産性の向上や組織の活性化という次元を超えて,「職員一人一人が人間として前向きに心を整えていること」が個人にとっても組織にとっても,これまでになく重要な時代がそこまで来ているのではないかという予感が,多くの人に共有されるようになって来ているように思われる.
そこで本稿では,心を整えるとはどういうことなのか,それはどうすれば実現できるのか,そしてそれが病院経営に何をもたらすのかということを,座禅やヨーガはもとより,日本の武道や芸道も含めさまざまな領域で実践されてきた,マインドフルネスという心の使い方の解説を通して,探ってみたいと思う.
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