特別記事
医療への人工知能(AI)の導入と患者・医師関係—AIの「最適解」をどう考えるか
井上 悠輔
1
,
菅原 典夫
2
1東京大学医科学研究所公共政策研究分野
2獨協医科大学精神神経医学講座
pp.698-703
発行日 2020年9月1日
Published Date 2020/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541211266
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■はじめに
本稿では,医療への人工知能(以下,AI)の導入をめぐる倫理問題,とりわけ,患者や医療者が直接経験しうる問題に注目して検討する.医療は,労力と知識を総動員して行う作業であり,業務の効率化・精緻化の観点から,AIを活用した作業の自動化・機械化への注目が高まることは,必然といえるかもしれない.背景には,医療の質や費用の問題,労働環境のほか,個人のニーズや病状に合ったより精緻な医療の開発など,医療が直面する切実な課題がある.2019年度末から本格化した新型コロナウイルス感染症についても,個々の患者に関する症状の重篤化予測,急増する関連論文からの情報の抽出などにおいて,AIの活用が提案されている1).
本稿は,大きく二部により構成される.前半では,ELSI(Ethical,Legal and Social issues)の視点から,現状の主たる議論を概観する.ELSIとは,新しい科学技術の展開が及ぼす社会へのインパクトを考える視点であり,とりわけ生命科学・医学の文脈で展開してきた視点である注1.後半では,現時点で医療者(医師)・市民が,医療におけるAI(以下,医療AI)をどのように捉えているか,両者それぞれの理解・反応を比較できる質問票調査の結果を共有したい.
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