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はじめに
ある日の外来に,倦怠感を訴える患者が来院したとする.この患者に対して血液検査を行ったところ,自動血球計数装置からは,白血球数の増加と未熟白血球の存在,貧血,血小板減少を示す数値が得られた.また,同時に行った生化学検査からは,乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LD)と尿酸値の増加,C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)の高値が報告された.これを見た臨床検査技師は造血器腫瘍を疑い,末梢血塗抹標本を作製してギムザ(Giemsa)染色標本の顕微鏡観察を行ったところ,やはり骨髄芽球と顆粒球の形態異常が認められたため,血液内科医に報告した.報告を受けた血液内科医は骨髄穿刺を行い,ギムザ染色に加え,ペルオキシダーゼ染色やエステラーゼ染色などの特殊染色も実施するよう指示した.さらに,血液細胞の表面抗原解析と染色体分析も提出した.これら一連の検査データから急性骨髄性白血病であると診断し,今後の造血幹細胞移植の必要性も視野に入れつつ,寛解導入療法を開始した.
こうした一連の検査・診断は,今もって医師や臨床検査技師の経験と勘に依存するところが大きい.なぜなら,いずれのプロセスも,まず疑わないことには次の段階に進まないからである.倦怠感を単なる疲労と捉え,患者を帰してしまえば白血球数の異常増加も知りようがないし,仮に血液検査を行ったとしても,LDや尿酸値が上昇していることの意義を解釈できなければ,細菌感染症と診断して抗菌薬投与のみで終えてしまうかもしれない.
こうしたなか,現在,血液疾患を含むあらゆる分野において,機械学習(machine learning)を取り入れた疾患の診断や予後予測システムの開発が行われ,見逃しを防ぎ適切な医療介入を行うための取り組みが続けられている.本稿では,人工知能(artificial intelligence:AI)や機械学習の概念を解説し,最近の血液検査領域からの論文を引用しながら,血液検査領域における機械学習装置の活用について紹介する.
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