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■はじめに
平成29(2017)年3月末までに全ての都道府県が地域医療構想を策定し,4月からは各地で地域医療構想調整会議(以下,調整会議)における検討が始まっている.今回の地域医療構想では,地域別の分析が可能なデータに基づいて,各地域の傷病構造および地域医療提供体制の現状分析と将来推計を行い,その結果に基づいて各施設が自主的に機能を選択することが目指されている.また,仮にある施設が地域医療構想の趣旨から見て適切でない機能選択を行おうとした場合,都道府県知事が公立病院に対しては是正の命令,民間病院に対しては勧告をすることが可能であるとされている.さらに公的病院に対しては,公的医療機関等2025プランの策定と都道府県への提出が求められ,病床機能の転換をする際にはその内容が調整会議で検討されることとなった.
病床機能の転換に関しては,それまで主に高度急性期・急性期を担ってきた公的病院が地域包括ケア病棟を持つようになったことが,地域の民間病院などの関係者から批判されている.資金力のある公的病院が回復期までカバーすることで,民間病院の役割が縮小し,経営的にも不利になるという思いがそこにはある.過去2回の連載(第19・20回)で,民間病院を含めた全ての病院が公的医療機関等2025プランをフレームワークとして地域の現状を分析し,自施設の今後の在り方を検討することの必要性を論考したのは1, 2),以上のような調整会議における議論の混乱を回避するためである.永井良三氏(自治医科大学学長)は社会保障制度改革国民会議で以下のように述べて,データに基づく医療制度改革の必要性を強調している.
「日本は市場原理でもなく,国の力がそれほど強いわけではないですから,データに基づく制御ということが必要になると思います.ところが,その肝心のデータがほとんどない.……その制御機構がないまま日本の医療が作られているというところに一番の問題があるのではないかと思います.……そうした制御機構をどうつくるかという視点からの議論を是非していただきたいと思います.」3)
この前提に立てば,公民にかかわらず全ての病院がデータに基づいて自施設の「施設計画」的なものをもって調整会議およびその関連会議の場に臨むことが望ましい.非営利性が重視されるとしても,経済活動を行っている以上,病院も企業経営のような計画性を持ち,PDCAサイクルに基づく経営を行うことが求められている.
今回の地域医療構想に基づく各地域の医療提供体制の再構築は,上記のような考え方を前提としている.しかしながら,筆者がこれまで聞き及ぶ限りでは,まず都道府県から示される機能別病床数の数値ありきで,その数合わせや機能転換に関する疑心暗鬼を抱えたまま議論が続き,調整会議が空転している例が少なくないという.それでは実効性のある計画づくりはできない.これまで本連載で何回も説明してきたように,機能別病床数は一定の仮定の下で推計されたものであり,そこに示された数値は金科玉条のように絶対視されるべきものではない.あくまでそれは参考値であり,調整会議における議論は地域の実情に合わせて柔軟に行われなければならない.
調整会議における議論が建設的に行われるためには,各地域において今後どのような体制が望ましいのかという具体的な「絵姿」が必要である.必要なのは単なる機能別病床数ではなく,施設間の連携も含めた具体的な設計図である.そうした設計図なしに機能別病床数の適正化を考えようとしているところに無理があるように思う.
そこで,本稿では,わが国と同じような地域医療計画を運用しているフランスのSROS-PRS(Schéma Régionale d'Organisation Sanitaire-Priorité Régionale de la Santé;地域医療計画-地域保健優先課題)を参考として,わが国の地域医療構想─地域医療計画の今後の在り方について論考してみたい.
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