発行日 1949年9月1日
Published Date 1949/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541210261
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「医師は診療室を訪れる患者,往診を求める患者を診療しておればそれでいゝのではないか。」若しもこういう考が許されるならば,医療はまことに安泰な業務だと言えるであろう。しかし,この考の根底を洗つて見ると,医療に対する医師の自己本位性と,目前の患者だけを見て社会に於ける患者を見ないという医療の社会性無視とを見逃すわけにはゆかないであろう。
目前の一本の樹木が連山をも蔽いかくすように,身近な対象の爲めに,より大きな対象や,より多くの対象を見失うことは,世の中に数多く例のあることである。診療室を訪れる患者の少くないのを見て,患者は皆それぞれに然るベく医療を受けているであろうと解釈して,自分の行つている医療そのものの社会的意義について,別に深く意を用いないという医師が今尚おあるのではあるまいか。
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