発行日 1949年10月1日
Published Date 1949/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541210181
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わが國の医療は,主として開業医制度即ち企業的医業によって営まれている。企業的医業は,当然医師の経済生活の根拠となるのであるから,その営む医療も亦,いきおい医師本位に傾くを兔れない。今日種々論議されているわが國の医療の在り方も,不滿乃至非難に当る事項は,何れもこの企業的医業の性格に關聯するものである。
企業的医業に於ては,社会全体の患者を対象として,如何にして医療を普及し,如何にして医療の平等を期するかと言うが如きことは,始めから問題とならないのであるから,医師は経済上有利な地点に開業し,只診療室に現われた患者だけを相手とし,医師自身の経済的負担となる樣な患者は,好ましからざる相手であるところから,自然取扱上の平等は期し得ない理である。従って患者は大体に於て,一定の資力ある階層に限定されることとなるのである。資力ある階層は又知識ある階層でもあるから,医療に關しての経済的苦悩も少く,精神的若悩も少い爲めに,医師は患者の経済生活,家庭生活又は精神状態等に立入って,指導や処理を講ずる必要にあまり直面しないのである。この様な事情の下に,医師は患者を一人の人として扱うことよりは,病變そのものを主要対象とすることに傾き,豫防上の指示すらも等閑視するに至ったものと解される。
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