発行日 1953年5月15日
Published Date 1953/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907297
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數年前東京都内の大病院の總婦長達のレフレッシャーコースに招かれて,醫療社會事業の話をしたことがある。講義を終えて後,聽講されたそれらの總婦長の方々に,彼女等の經驗した社會的な援助を必要とする患者を扱つて困つた事例を書き出して貰いたいとの私の願いに答えて,大多數の方々から非常に興昧深い報告を戴いた。その中から簡單に問題の焦點だけをとつて,次の7例をこゝに御披露して見よう。これらの事實は,大東京の比較的整備された筈の大病院内で現實に起つたこと,そして看護婦諸姉がどんな困惑をされ,患者達がどんなに救われずに放置されて居るかを知るのによい資料である。
例1 9才の女の子,腸チフスで入院,環境は母親と上野池の端の厚生會に2人暮し,入院當時身體は非常に不潔,頭髪には虱が一ぱいたかつて居た。看護婦はスポンヂバスを毎日施し,髪にはDDTを散布して駆除に努めたが,容易にとれず,ダイエットから酢を持つて來て頭にかけ,一晩布を卷いておき,翌朝大體死んだ様に思われたので,今度は白い卵を梳いて取つてやつた。こんなに手をかけて身體も頭髪も非常に清潔になり,輕過もよく,いよいよ退院と云うことになり,家庭に返して後にもこの様な清潔な状態で居て慾しいと願つた婦長初め看護婦達は,母親にそのことについて話した。處が母親の答は「自分は新宿で,この子は上野京成の入口で毎日新聞を賣つて居ますので,あまりきれいにしておくと新聞が賣れなくなります。
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