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■なぜ海外の医療制度を研究するのか
筆者はフランスの給費留学生としてフランス国立公衆衛生大学校(ENSP,現在は国立公衆衛生高等学院:EHESP)で学んだ経験がある.この学校に入学することは同時にフランス保健省の公衆衛生監督医候補生(見習い医官)になることを意味した.ちょうど筆者が滞在した1991年はフランスの医療制度を大きく変えることになった病院改革法が制定された年だった.医療計画の策定が始まり,またDRGの導入実験が大きく動きだしていた.こうした事業に医系技官として参加できたことは非常に大きな経験であり,現在の筆者の研究の基礎となっている.当時の筆者の指導官は現在のEHESP学院長のLaurent Chambaud氏であった.氏の指導の下,筆者が与えられた大きな研究課題の一つが諸外国の医療制度の比較研究であった.当時,欧州統合を強力に推し進めていたフランス政府にとって,統合後の各国間の医療制度の整合性をどのように確保するかが,重要な政策課題になっていた.そのため,国の公衆衛生専門の大学校であるENSPがその研究の中心となっていたのである.調査研究にあたってChambaud氏が筆者に強調していたことは,医療制度を歴史的に分析することの重要性であった.制度はそれがそのように形成された歴史的理由がある.それを理解することなしに,その国の医療制度の本当の姿はわからないというのが彼の主張であった.これは,その後の筆者の医療制度研究を行う際の基本姿勢となっている.
ところで,われわれは何のために諸外国の医療制度を研究するのであろうか.第一は学問的興味である.そして,第二は諸外国と比較することで日本の医療制度を相対化し,その理解を深め,そして改革案を考えることだろう.したがって,諸外国の医療制度を理解しようとするのであれば,そうした視点から記述された書物を読むことが望ましい.以下,いくつかの文献を紹介してみたい.
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