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皆さんは,社会疫学(social epidemiology)という学問があることをご存知でしょうか? 筆者が初めてこの学問に触れたのは,1999〜2000年にハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の武見プログラムに参加した時です.HSPHの修士・博士課程では,この社会疫学は必修科目の一つとなっています.社会疫学の創設者であり,HSPHでこの教室を主宰しているのが,本書の著者のイチロー・カワチ教授です.本書は,2002年に出版された“The Health of Nations;Why inequality is harmful to your health”を,社会疫学研究会の皆さんが翻訳し,2004年に日本で出版されました.恐らく日本語で読める社会疫学の最初の教科書でしょう[英語では“Social Epidemiology”(2000年初版,2014年第2版)が教科書ですが,日本語訳は残念ながらまだありません].
社会疫学を一言で説明するのは難しいのですが,貧困,経済格差といった社会経済学的因子が健康を左右するだろうということは感覚的に理解できると思います.そこで,どのような社会経済学的因子が,どのように健康を左右するのか疫学的手法を用いて客観的に明らかにするのがこの学問です.2000年当時この授業を受講した時には,大変にインパクトを受けたのですが,一方で,この学問は,豊かな国にもかかわらず,平均寿命は決して高くない米国の状況を理解するための学問だとの印象を受けました.それが,わずか10年足らずの間に,日本においてもこの学問がクローズアップされ,かつ,必要とされる状況になるとは当時想像するのは困難でした.
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