海外の医療
英国の老人医療とその社会的文化的背景
江藤 文夫
1
Fumio ETO
1
1東京大学医学部リハビリーテーション部
pp.982-987
発行日 1984年11月1日
Published Date 1984/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541208458
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黄昏とか斜陽とか形容される大英帝国は,経済を中心に考える世界史においては,その言葉どおり事実であるとしても,ブリテン島に住む大半の人々にとっては昔も今も変わらぬ田園風景に囲まれて暮らすことが望みのようである.相変わらず,イングランド,ウエールズ,スコットランドそしてアイルランドは独立している.イングランドの人々にとってはパブでエールを飲みながら世間話をしたり,ゲームをすることが大きな楽しみの一つであり,退職後の大切な仕事と楽しみは庭造りであるらしい.小さな島の住民に過ぎないことを自覚しているが,エジンバラよりはパリのほうを近く感じている者も多い国でもある.
大英帝国からして,国家目標としてよりも,島をはみ出したり,追い出された人々が世界に散って,功成り財をなして故郷に錦を飾ることにより成立したものであろう.彼らにとっては,生まれ育った土地や家が最も大切なものであり,「埴生の宿」が原点なのである.その歴史の連続の象徴として王や大司教が必要なのであり,その逆では断じてない.それが第二次世界大戦中,全ヨーロッパがナチスドイツにより制圧され,最後の自由の砦として戦った英国歴史「最良の時」を境に,皮肉にもブリテン島に引き込まざるを得なくなったとき,独特の福祉制度が生まれ,老年医学が世界で始めて独自の専門領域として発展し得たように思える.
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