医療の周辺 物理学・2
放射線治療と診断
尾内 能夫
1
1癌研究所物理部
pp.604-605
発行日 1981年7月1日
Published Date 1981/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207514
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速中性子治療は主として反跳陽子,熱中性子捕獲療法はHe粒子による治療であることを前回で述べた.これらの陽子あるいはHe粒子などの重荷電粒子を,サイクロトロンあるいはシンクロサイクロトロンと呼ばれる加速器で加速して直接体外から照射すると,入射表面の線量は小さく,ある深部で著しく線量が上昇してピーク(ブラグピークという)となり,これを超えると急激に減少して,ある深部以上には達しないという深部治療にとって理想的な線量分布となる.また粒子が重いので電子のように散乱されないで直進するので,照射野外への散乱が小さく,照射野外の線量を小さくできる.これらのことをWilsonは,1946年に報告し,1951年にはバークレイのTobiasが重陽子による動物実験を開始,1955年には184インチのシンクロサイクロトロンを用いて加速した陽子による治療が実施されている.現在,ボストンのハーバード大学(160MeV),スウェーデンのウプサラ大学(185MeV),ソ連の3か所で陽子線治療が行われている.日本では1979年の秋から放医研で70MeVの陽子線治療が開始された.
陽子線治療は,線量分布の点では上述したように理想的であるが,高LETとしての生物学的効果はないことが分かってきている.
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