特集 末期患者の医療を考える
末期患者の臨床と問題点—自験例63例の分析による,一内科医の反省
谷 荘吉
1
1東京大学医科学研究所病院内科
pp.640-646
発行日 1978年8月1日
Published Date 1978/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206608
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はじめに
内科領域で扱われる悪性腫瘍のなかで,たとえば胃癌とか肺癌などの一部は,最近の健康診断の発達によって比較的早期に発見されるようになった.その際には,早期手術による原発腫瘍の摘出が可能なので,完全治癒の望みがもてるようになってきた.隣接臓器への浸潤や遠隔転移がなく,外科的除去が可能であれば,癌といえども永久治癒が期待できる.しかし,初診時にはすでに腹部腫瘤を触れ,肺には播種性の転移巣が発見されるといったような症例では,たとえ化学療法や放射線療法,免疫療法などによって治療が行われたとしても,現状では完全治癒を望むことは不可能であり,そうした悪性腫瘍の患者は,絶対に死を回避することができない.日本では現在,年間死亡総数の約20%が癌などの悪性腫瘍性疾患によって死亡している.これらの悪性腫瘍性疾患のために末期的症状を呈する大部分の患者は,最終的には入院治療の適応となる.病院の医療スタッフは全力をあげてそうした患者の身体的苦痛を緩和するために,最高の治療手段を用いて,最善の医療を行うことになる.そしてもはやいかなる手段をもってしても絶対に死を避けることができないという時期が到来しても,なお救命や延命のためのあらゆる努力を払うのである.場合によっては,静脈切開が行われ,気管切開がなされ,人工呼吸装置が装着される.そうした生命維持装置に囲まれて患者は身動きひとつできなくなる.
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