病院の窓
人口爆発と福祉爆発—人口の南北問題
若松 栄一
1
1日本公衆衛生協会
pp.449
発行日 1978年6月1日
Published Date 1978/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206551
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ローマクラブが「成長の限界」を発表して人類の危機感をあおったのは1972年であった.その序論で当時の国連事務総長ウ・タント氏は次のように述べている.「国連加盟諸国が,古くからの係争をさし控え,軍拡競争の抑制,人間環境の改善,人口爆発の回避,および開発努力に必要な力の供与をめざして世界的な協力を開始するために残された年月は,おそらくあと10年しかない」と.そして今その10年の半分がすでにすぎ去ってしまったのである.その間に世界は,われわれはどう対処してきたのだろうか.
人口爆発から見てみよう.1970年に世界の人口は36億に達しなお年率2.1%の率で増加しており,世紀末の2000年には63億に達すると予想されていた.人口爆発に対する制御としての家族計画の普及はアジア地域ではある程度の進展をみせているし,抵抗の強かったラテンアメリカ諸国でも漸く実行段階に入って来た.しかしアフリカ地域でははかばかしい成果はない.それでも最近の報告によると,1977年の世界全体の人口増加率は1.7%くらいにまで下り,2000年の人口も55-58億と下方修正の推計も出されている.その点,開発途上国の努力と先進国の協力がある程度の成果をあげていると見ることもできる.しかし食糧の不足と大都市周辺のスラム化で治安の悪化が見られ,世界の安全保障に対する脅威となる心配は解消されそうもない.
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