院外活動日誌
電熱器とホースとヒモと
伊藤 利之
1
1横浜市立港湾病院リハ科
pp.320
発行日 1978年4月1日
Published Date 1978/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206514
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○月○日
先日,ある福祉事務所のケース・ワーカーから,脊椎カリエスで寝たきりの生活をしている人だが,車椅子が欲しいと言っているので見てもらえないか,という依頼を受けた.病院から歩いて15分程度の場所でもあるし,何の抵抗もなく引き受けたのだが,数日後,訓練士と一緒にその家を訪問してびっくり仰天してしまった.
大通りに面した木造平家の古い家,その一室で,患者さんは本と衣類の山に埋もれるような恰好で寝ていた.しかも,20年以上もの間ギプスベッドに仰臥したままで生活しているという.10年前に母親が亡くなってからは一人暮しで,同じ家に姉が住んでいるにもかかわらず,不動産の権利をめぐるもめ事があって以来,何の手助けも受けられないでいる.仕方なく,買物と便の排棄だけはヘルパーさんに依頼しているらしい.しかし,それ以外は,食事の支度から洗濯まで一人で行っているというのである.実際に自分の目で確かめなければ信じられる話ではない.身体を診察した私でさえ,起きて歩くことなんかできるわけがないと考えつつも(脊椎,股・膝関節の拘縮が著明で,長坐位をとることもできない),もしかしたら,夜中に起き出して歩いているのではないか,と疑いたくなったほどである.
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