看護婦長日誌
神経科・泌尿器科病棟
佐々木 悠子
1
1神戸市立中央市民病院
pp.72
発行日 1977年9月1日
Published Date 1977/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206337
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ある日の当直のこと
6月○日
夜,病棟巡回時,ポケットベルが鳴る.「今夜はよくこのベルが鳴るなあ——」と思いながら急いで連絡をとる.救急病棟からの呼び出しだ.内科系の当直医が電話に出て,「今,救急車で入院した患者のことで困っているのですぐ来てくれないか」とのこと,急いで行ってみる.事情をきくと,旅行病人で警察の方で身寄りをさがしているが,患者は家人の来院を拒み,その上治療を受けることもいやだと言って,こちらの言うことをきかない,ということである.とりあえず拒んでいる理由を問うと,「家から勘当されている身だから……それにボクは元気にならんでもいいんです」とすねたようにいう.治療の必要性を再三にわたり説明してもなおのこと拒否してくる.そうしているうちに母親が来院した.患者の顔をみるなり「こんなア,人に迷惑ばかけよって……,なさけなか.先生ば言うこっきいてようならんと.どげなことになっても知らんけに--」といって帰ろうとする.その母親を別室に呼んで医師とともに話をきいてみることにした.こんな時に今さら親子関係について述べたところで……とむなしさを感じる.しかしなんとかしてこの若い患者に適切な治療をしなければというK医師の熱意が通じたのか,やっと母親が患者のそばにいてくれることになった.母親の涙をみた時,私は「やっぱり親子なんだなあ,母はやさしいんだなあ」と一瞬胸が熱くなる.
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