病院の窓
病院診療の頼りなさ
弓削 経一
1
1京都府立医大
pp.17
発行日 1977年6月1日
Published Date 1977/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206242
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病院診療が頼りないと言って,私は何も病院がいいかげんな診療をしているなどと言うつもりはない.病院診療は言うまでもなく立派である.ただし「断片的には」と断わらざるをえないところに頼りなさがある.大学病院をも含めて,病院に患者を紹介すると,頼りない洗濯屋にワイシャツを出したときのように,患者がどうなったのか,よくわからなくなることがしばしばある.内科に入れたつもりがいつの間にか外科に移ってしまっていたりする.紹介した患者がとっくに死んでしまっていても,その先生は知らないことがある.病状や見通しをたずねると部長は受持にきいてくれといい,受持は部長にきいてくれという.あるいは受持の意見を部長に伝えると,部長は首をかしげることもあり,患者や家族が両者の間に立って処理に当たらねばならないこともある.
このような病院診療の頼りなさは,何々病院と限ったことではなく,わが国の病院に通有のことである.外国の病院ではそんなことはないようだと言われるが,よその花は美しく見えるのと同じく,実はよく調べれば,世界のどこの国の病院も同様の不満が持たれているのかもしれない.したがってそれは病院というものの通性であるかもしれない.そして個人責任で診療に当たっている開業医さえも,病気の経過がおかしくなるとどこか大病院へ行ってくれと患者を放り出すことがよくあるので,頼りなさは治りきることの少ない病気というものを相手にする診療のもつ避け難い欠陥であるかもしれない.
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