特集 効果的な案内とは
人間工学からみた案内標識
倉田 正一
1
1慶応大学・病院管理学
pp.22-25
発行日 1973年11月1日
Published Date 1973/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205151
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患者に不案内な案内標識
外来の受付事務をすませた老人,杖をたよりに中央廊下の四辻までやってきたが,そこで足がとまった.その中央に案内標識の棒があったからである.標識は診療科から売店に至るまで30はあったろうか.同じ型の標示板が1方向7つぐらいずつ4方向に並んでいる.くだんの老人,首をかしげながら左へ回った,さらに左へ,また左へ.けっきょく元の位置までひと回りして立ち去っていった.次に子供をおぶって,もう1人の子供の手をひいたかみさんがやってきた.標識にぶら下がろうとする子供を叱りながら右へ右へと棒の回りを回りだしたのである.彼女もけっきょく元の位置まできてから,足早に立ち去った.何のことはない,標識棒は四辻で患者の渦を作る役割を果たしていたのである.
小児科外来の廊下の椅子に腰掛けて待つ母親に子供が何かいっている.‘おしっこ’である.あわてた母親,手洗はどこかと見回すがわからぬらしい.看護婦が通り合わせた.尋ねられた看護婦,あごをしゃくって‘そこに標識があるでしょ’といった.なるほどあったのであろ.薬局の前でテレビをみながら自分の番号標示を待っていた男,いそいで椅子から立ち上がって窓口へ突進した.とこるがぶつぶついいながら元の場所へ引き返してきたのである.彼は6と9の数字を読み違えたのであった.階段の踊場で立ち止まった見舞客らしき婦人,階数を示す標示を見上げながらびっくりしてアレと口ごもった.
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