麻酔科医日誌・3
麻酔は危険か安全か
山下 九三夫
1
1国立東京第一病院麻酔科
pp.72-73
発行日 1971年3月1日
Published Date 1971/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541204268
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男子一生を託するに…麻酔というと,手術室で外科医の助手として手術中患者を眠らしておけばそれでよいという考えが支配してきた.ことに50歳以上の医師は,その大半は麻酔の正規な教育を受けておらず,若い時代に教授にしかられながらエーテルの開放点滴に悩まされた,悪夢に近い思い出があるにすぎない人も多い.したがって麻酔は若い医師が外科の修練のかたわら行なうか,ときには看護婦を横から監督しながらでもできる,男子一生を託するに足る仕事ではあるまいと多寡をくくっているのが大方の意見である.ところが,一度この事故にあうと,今度は逆にものすごい麻酔恐怖症に陥る.いったい麻酔とはそれほど恐ろしいものであろうか.また,だれがやってもよいほど簡単なものであろうか.
正直のところ,私は10数年も麻酔に専従しながら,ときどき背すじがゾーッとするような恐怖心におそわれるときがある.それは自分がまだ経験しなかったり,見たことも聞いたこともないような症状を手術や麻酔中経験するときである.
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