特集 病院に残る古きもの
病院に残る古きもの・5
病院の下足
山口 寛人
1
1全国社会保険連合会
pp.38-39
発行日 1970年12月1日
Published Date 1970/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541204181
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こないだある大学病院に午後3時ごろ行った.下足におばさんが1人いたが,靴はもう預からないから,自分で下げてゆけという.そこらに散らばっているスリッパのなかで比較的程度のよいのを選んだが,片方はレザーがはげてボール紙が露出しており,靴下を通じてもザラザラと感じる.靴を下げて院長室まで歩いて行った.あんまりかっこうのよいものじゃない.さりとて玄関に雑然と脱ぎ捨てられている靴やサンダルの混沌のなかにわが靴を捨ておいて,万一帰りに見つからなければ,遠路はだしで帰らねばならない.
病院によっては,私がはいってゆくと,特別りっぱなスリッパをそろえて下さる所もある.これもたいそう気持ちがよくない.一般患者さんは汚ないスリッパなのに,私だけが新しいきれいなのをはくのは抵抗感がある.
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