新春特集号 年頭所感
病院管理雑感
萩原 義雄
1,2
1日本病院学会
2国立京都病院
pp.14-16
発行日 1965年1月1日
Published Date 1965/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541202488
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私が国立病院へはいったのは昭和21年の秋である。終戦後まもないその頃の病院の姿は,真に驚くべきものだった。入院患者は戦地から帰還した兵隊さんばかり。それが泥だらけな部屋で,きたない木製ベッドに臥て,ほとんどが下駄ばきで家の中を歩きまわる。下駄ばき禁止令を出したら昼間は藁草履に変えても,夜になればまた下駄で歩く。当時,総室にダルマストーブが入れてあったが,石炭が足りないものだから,どこかからひっぱがしてきた板を燃やす。なかには長さ3尺もある材木を突込んで,火がストーブの外で燃えているところがある。手術をすませて,夜,病棟の廊下を通ると,ストーブのうえで鋤焼をして,看護婦までいっしょに食べているのを見たことも何度かあった。敗戦国の兵隊というものは,なんと行儀の悪いものだろうかと,ほんとに呆れかえってしまった。その他,何から何までお粗末至極なものだった。
当時医療局長官をしておられた塩田先生のところへご挨拶にうかがったら,「きみ,驚いたろう。今の国立病院は"病院"じゃないよ。牢獄みたいだよ。きみ,むずかしかろうが,頼むからこれを"病院"にしてくれたまえよ」といわれたのを今でも覚えている。こんな時にアメリカの人がきたんだから,驚いたのもむりはない。
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