--------------------
ベツト生活の一日
千種 峯藏
1
1厚生省関東信越医務出張所
pp.2-7
発行日 1955年1月1日
Published Date 1955/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200909
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
私が某病院の結核病棟に入院した当時は,静かに自用を弁ずることが出来たし,読み物には別に制限がなかつたし,それに,かなり見舞客があつたので,退屈を感ずるようなことはなかつた。私には,元来,自分の周囲の何かに首を突つこんで,それにささる性質があるので,過去に於ても,退屈の経験はあまりなかつたように思われる。それに,療養生活は,外見はノツペラボーな生活のようであるに反して,その実際は時間的に関所が多くて,1日の生活は,他働的に,歯車のように規則正しく回転させられるので,読書の許されない人はいざ知らず,又,長期間療養を続けた後のことはいざ知らず,入院当時の私には,療養生活は,退屈とは,凡そ縁遠いものに思われたのである。
ところが,見舞客の中で,「退屈でしよう」と言われる人は少くなかつた。それで,この挨拶は実は私には,一寸異様にすら響いたのである。しかし,そういう挨拶に度々接しているうちに,私は,これは,療養生活というものの実態,即ち,ベツト生活の日々というものが,一般に,わかつていない為めだろうから,この入院を機会に,自分で,1日のベツト生活の記録をつくつてみようということを考えついたのである。
Copyright © 1955, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.