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あとがき
小西
pp.58
発行日 1954年3月1日
Published Date 1954/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200791
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自然は正直だ。別に規則や法律がある訳ではないのに,3月の声をきくと,まだ裸のままの庭の樹々も何とになしに春の息吹きを感じさせ,草花の芽がやわらかい土から頭をもたげる。然しこ,んなことを書いていても今年の気紛れ気象のことだから,明日は大雪,ということにもなり兼ねない自然界の御乱行振りである。まさかこれをまねた訳でもあるまいが,人間界も汚職ブームでもちきりでお,る。医業は重箱の隅をつつく様な監査をうけたり,零細な收益に対する課税に頭を痛めたりしているが,今村氏の云う様に,今日の社会で病院ほど「善意」に固つて活動が行われている所はない様な気がする。
今次国会の二大テーマとして,警察法の改正と教員の思想調査が挙げられている。このもの自体の是非は別として,我が国の社会は何か見えない強いゴム糸でグングン旧態に引ずられつつある様な気がする。一寸油断をすると一足飛に元の杢阿彌にハネ戻り兼ねない。医界にもその兆なしとは云えない。Dr. Haraは新生児室の問題に籍口して警告を発して居られるが,今日の医界で正面を向いて途ら前進しつつあるのは病院関係者のみではなかろろか。歴史は繰返すというが,徒らに元の姿に戻つてしまうのでは芸がなさすぎる。進歩する社会というものはスパイラルを登る様なものだと云われる。岩佐氏によれば,紀元前のギリシヤのポリスは現代の社会機構と酷似し,病院も類似的性格をもつていたというが,それは同一の物ということではない。
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