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病院と管理(その11)—病院の倫理
吉田 幸雄
1,2
1厚生省医務局医務課
2病院管理研修所
pp.23-27
発行日 1950年5月1日
Published Date 1950/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200138
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23 医術と病院
医術は,そもそも生命を対象とするものであるから原始時代から経験的であると同時に又宗教的であつた。唯科学が勃興するに従いその経験は医学を形成するようになり,形而下学としてのその医学が発展するに従つて稍もすると形而上的宗教的色彩を失いかけようとする為に,医家という独立した職業に対して常に医道というものがうたわれ警告されて来ている。この医道の表現としては,欧米ではギリシア的又はキリスト教的であり,東洋に於ては仏教的,儒教的である。そしてこの医学と正しい宗教的又は倫理的概念との結びつきである医術こそ近代社会から要求さるべき医術である。
わが国に於ても幾多の医箴が残されている。例えば丹波康頼の「医心方」(982年),惟宗具俊の「医談抄」(1284年)等の仏教観によるものがあり,儒教的には「医は仁術」として取扱つた医箴は幾多存在する。欧米に於ては,遠いギリシアの昔ヒポクラテスの医箴がさん然と輝いたが,中世紀の暗黒時代を通つて,16世紀以後にあつては西洋の医学は漸く科学的のものとなり宗教とは相離れるようになつた。しかし尚宗教に本づきたる道義は術これを伝え,医術は尚倫理的技術としての特性を具えて居つた。然し18世紀の終頃からは次第に形而下的技術の傾向を帯び,哲学及び宗教は排斥されるようになり,そうして自然科学主義は智能の修養と知識の獲得とに最大の価値を置いて感情及び意志の修養は等閑に附せららるようになつた。
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