特集 先端医療と病院
先端医療と生命倫理
樋口 範雄
1
1東京大学法学部・大学院法学政治学研究科
キーワード:
先端医療
,
先進医療
,
遺伝子治療
,
人工生殖
,
再生医療
Keyword:
先端医療
,
先進医療
,
遺伝子治療
,
人工生殖
,
再生医療
pp.514-518
発行日 2014年7月1日
Published Date 2014/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541102812
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■用語としての先端医療と先進医療
この雑誌の読者なら常識かもしれないが,普通の患者(医師以外の人々)にとって理解が難しいのは,「先進医療」と「先端医療」が異なるという点である.本稿は「先端医療と生命倫理」と題しているから,「先進医療と生命倫理」を論ずるものではない.しかし,そもそも「先端医療」と「先進医療」はいかに異なるか,というところから本稿を始めるのが便宜であろう.
「先進医療」とは「最先端の技術を用いた医療」であるから,本来は,「先進医療」も「先端医療」も同じ意味の言葉である.ところが,日本の医療制度の中では,「先進医療」に特別の意味を持たせた.それは,「先端医療」のうち,厚生労働省が指定した特定の医療機関で特別に承認した「先端医療」を指す.どこが違うかといえば,医療保険上の取り扱いが異なる.通常の保険診療と保険外の自由診療を組み合わせた場合,混合診療禁止という大原則の下ではすべて保険診療から外れ,患者が全額自己負担することになる.そもそも混合診療禁止の原則が本当に国民皆保険制度維持のために必要か,患者のためになるのか,そもそも法に基づく原則といえるのか1),には大いに議論がある.本稿ではそれに触れないが,実際には混合診療禁止という原則にはいくつもの例外が認められている.入院した場合の差額ベッド代は保険が利かないが,だからといってすべての診療費が自己負担になるわけではない.同様のことが,時間外診療や一定の歯科医療などに認められており,その1つとして,先に指摘したように国が特に承認した「先進医療」が含まれている.
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