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在宅死は過去50年減少し続け,2009年には12%となり,この割合は最近5年間で変化していない1).一方,2008年度の国の調査によれば,死期が迫っている時の療養場所として,自宅で最期まで療養することが実現可能と考える一般国民は6.2%であり,自分が終末期と診断された場合に最後まで自宅で療養したいと考える割合も11%と,いずれも低い割合である2).このように低い割合に留まっている理由の1つとして,自宅以外(病院・施設)を希望する人々は,訪問看護や在宅サービスの存在や仕組みを知らない割合が高いことが挙げられよう3).しかし,情報を提供することによって意向が変わる可能性があり,宮下らによれば,緩和ケアのシンポジウムを受講した一般聴衆において,「自宅で十分に治療や介護を受けられるシステムがない」と考える割合は受講前の61%から32%に減少し,逆に「終末期の在宅療養が可能」と考える割合は9%から34%に増加していた4).このように,終末期における積極的な医療行為の利点や欠点,在宅で受けられるサービスや仕組みについて国民にわかりやすく提示することで,個人の価値観や経験に基づいて在宅終末期をイメージし,その実現可能性を知ることにつながると考えられる.
こうした背景で,在宅終末期における訪問看護の役割が理解されることは重要であるが,一般の国民だけではなく,医療関係者の理解も不十分である.そこで,訪問看護の具体的な役割として秋山が提示した70歳代の重症心不全末期の事例を紹介すると,大学病院を退院後,初回訪問から4日後の2回目の訪問において血圧64/40に低下していたが,清拭しながらのマッサージ・熱いタオルで足先を覆うケア・摘便により,82/62に改善し,表情も和らいだ.そして,この訪問の2日後に家族に見守られて在宅死したと記されている5).この事例の全経過は1週間であったが,訪問看護は患者の希望した在宅死を実現するうえで重要な役割を果たしたことが窺える.
筆者が上記のがん以外の患者の例を紹介したのには理由がある.在宅死の死因を見ると,全死亡の3分1を占める死因であるがんは,在宅死に限るとその割合は17.9%(2009年)と漸増傾向にあるものの2割に満たず,8割はがん以外の死因である.一方,在宅死の死因のトップは心不全であり,3割近くを占めている1).したがって,国として在宅死の割合を高めたいのであれば,がん以外の患者の終末期ケアの体制を整備する必要がある.
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