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近年にいたるまで日本国民の多くは,日本の医療は福袋的,すなわち中身はわからないけれど,自分にとって良い結果をもたらしてくれるものと思い込み信頼してきた.このような国民の感覚や文化が,医療現場での患者やその家族の方々が口をそろえて「先生にすべてお願いします」と言わしめる,医療者へのパターナリズムを生んできたとも言える.しかし1999年,このような国民の感覚を一挙に変えてしまうような大事件が2件相次いで発生した.1つは横浜市立大学病院において心臓手術を行う予定の患者と肺手術を行う予定の患者が取り違えられ,それぞれ本来行われるべき手術と異なった手術が施行された患者取り違え事件,もう1つは,東京都立広尾病院において,手術後の患者に対して投与予定であった血液凝固阻止剤ではなく創部処置用消毒剤が誤投与され,患者が死亡した事件である.
これらの事件が国民の医療に関する不信感と不安感を増長させる契機になったことは否めない事実であるが,さらにエスカレートされた国民感情が,正当な標準的医療を施行したにも拘わらず不幸な転帰をとった患者の家族が「医療ミスか医療事故があったのではないか」とすぐ訴訟に持ち込むような風潮に拍車をかけている現実をもたらし,医療者の疲弊の一因になっているのは嘆かわしいことである.一方,これらの事件を受けて,わが国の医療安全対策の基盤整備は急速に進み,2002年に厚生労働省医療安全対策検討会議は「医療安全総合推進対策~医療事故を未然に防止するために」とする報告書を取りまとめた.この報告書の中に「患者の苦情や相談等に対応するための体制の整備」という項目が掲げられ,特定機能病院および臨床研修指定病院に患者相談窓口の設置を義務づけるとともに,その他の医療機関にも相談窓口の設置を指導することが謳われた.
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