連載 リレーエッセイ 医療の現場から
父のFinal Gift
対本 宗訓
pp.1113
発行日 2008年12月1日
Published Date 2008/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101354
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私が初めて人の死の現実に触れ得たのは,30歳も半ば,実の父を見送った時であった.80歳の父は数年間の長患いの中で幾度となく入退院をくりかえし,長い長い時間をかけて,きわめて緩徐に死に立ち到ろうとしているかのように見えた.
死の10日ほど前のことであっただろうか,何日かぶりに父の枕元に立った私は,いつもと違う父の表情に思わず目を見張った.父の意識レベルは末期まで比較的保たれており,それまではきちんと私の顔を見て受け答えしてくれていた.ところが,その日に限って視線が私の体を通り越し,私の背後の空間の一点に焦点が結ばれた.そしてその目が実にいきいきと輝いている.まるで誰か親しい者がそこにいるかのように.
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