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今までの連載でのポイント
本連載は昨年9月号から連載してきました.今月号からは民間銀行からの長期資金調達をテーマにしていきますが,その前に今までに見てきた項目でのポイントを整理しておきましょう.
バブル経済の崩壊後に経済全体のパイが萎む中で,経済状況とは独立した医療行政方針という要因から病院では建築需要が発生し,病院の借入残高は増加してきました(10月号参照).一方この時期注1) に銀行の融資審査は企業格付,案件格付を基軸とする信用格付方式に変化しています(11,12月号).
国の政策方向に順応するための病院設備投資であっても,銀行審査でのファーストステップでは医療法人自体の企業格付によって判断されため,財務内容を良くしておく必要があります.銀行では病院専用の審査基準はなく,一般企業と同じ基準で格付や審査がなされます.銀行から見ると病院業界は売上高(医業収益)の絶対水準は高くなく,また売上高対借入金比率がとても高いという特徴が目に付きます.また銀行と病院との間の情報の非対称性は他産業と比べると特に大きく,銀行は病院業界のことをよく理解できていないと言えます(1月号).
病院の短期資金調達の実務については2,3月号で見てみました.長期資金調達では,自己資本以外では福祉医療機構をコアに考え,残りを民間銀行から調達するのが基本と考えます.4~6月号では福祉医療機構の医療貸付を整理しましたが,注意点は福祉医療機構が担保の第一抵当を設定することでした.7月号で担保について勉強し,8月号で連帯保証を解説してきました.
今月号以降では,民間銀行からの長期資金調達について勉強し,その後,リース,補助金,制度金融(国民金融公庫,保証協会,ふるさと融資など)を纏めてみます.以上が「間接金融」です.その後「直接金融」の分野に移り,寄付,病院債,流動化(診療報酬先権流動化,REIT など)を見てみる予定です.新しい資金調達手段として,株式についても検討し,PFI も整理してみましょう.
民間銀行の「医療・福祉」分野への貸出残高
最初に民間銀行の「医療・福祉」分野への貸出残高を見てみましょう.2年前の11月に,日本銀行の「金融経済統計」を web (http://www.boj.or.jp/stat/stat/htm)で見ていると国内銀行と信用金庫の貸出金(業種別)内訳で「医療・福祉」という項目が2003年第1四半期以降に新設されているのを発見しました注2).表1に纏めたのが最新の「金融経済統計」における国内銀行と信用金庫の「医療・福祉」宛貸出残高です.
表1によると2005年第1四半期末の国内銀行貸付残高396.4兆円のうち,「医療・福祉」への貸付残高は約8.6兆円でシェアは2.2%です.2003年第3四半期末では都市銀行での医療・福祉分野の貸出残高シェアは1.5%,地方銀行3.4%,第二地銀3.1%となっています.また時系列では都市銀行と第二地銀では貸出残高は減少傾向であり注3),地方銀行と信用金庫では一進一退の状況です.信託銀行,信用金庫も加えた金融機関別の医療・福祉への貸出では地方銀行が44.7%と大きなシェアを占めています(図1).
長期資金調達と関連の深い設備資金に着目してみると,2005年第1四半期末においては国内銀行の貸出金総額に占める設備資金(70兆4,875億円)は全体の17.8%であるのに対し,「医療・福祉」分野を見ると68.2% と高く,「医療・福祉」での資金調達では設備資金比率が高いことがわかります(図2,3).
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