Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
「完全参加と平等」が,昨年の国際障害者年のテーマであった.この目標を達成するためには,障害者の教育・福祉・職業・社会活動などの問題を解決するだけでなく,障害者を性的な存在として社会が受け入れ,その性や結婚の問題を解決することが不可欠である.障害者も男(あるいは女)であり,障害は二次的なものと考える事ができる.もちろん,障害者は,他の誰とも同じように,愛し,愛される権利を持っている.しかし,現実の社会を見た場合,このような条件が満たされているとは言い難いし,障害者自身も社会の否定的態度を内面化しているように思われる.
この事は,筆者がこれまで受けてきた結婚相談の内容を振り返ってみても明らかである.たとえば,脳性麻痺で寝たきりの30歳の独身男性は,両親が厳格過ぎてマスターベーションができない上に,それは害があると信じていた.また,35歳の重度下肢障害女性は,女としての役割が果たせないと誤解し,結婚をあきらめかけていた.このような事例は,決して例外的なものではなく,相談できずに一人で悩んでいる障害者もかなりいるものと推測される.
ところで,以前筆者が報告したように1),欧米においては,いち早くこの障害者の性の問題に注意が向けられ,その結果として,1967年にオランダでリハビリテーション学会の支部として,障害者性問題委員会(The Committee on the Sexual Problem of the Disabled)が発足した.そこでは,「性の問題も充分に考慮されなければ,真にリハビリテーションを完全なものとして考えることはできない2).」という結論が出されている.
一方,欧米における障害者の施設においても,以前は入所者の性や結婚を厳しく禁止していたが,今日では,個室を準備したり,障害者夫婦のために設計されたアパートを建設し,専門職員を配置する国も現われている.他方,未婚の障害者には異性,同性関係が実質上受け入れられており,2,3の施設では,障害が重くマスターベーションができない者が,医師の指示でさせて貰っている3).
また,かなり以前から,性教育カウンセリング・プログラムが,個々の障害者(たとえば,視覚障害者4))のために作成され,実施されている.そして,正しい性情報を障害者本人だけでなく,その家族や専門職従事者にも提供する努力が,徐々になされている.この際,学校,施設,病院などに加え,障害者団体の地方支部でも,性情報を提供5)するところが現われている.
そこで,このように障害者の性や結婚の問題に関心の深い欧米の文献・資料に基づいて,身体障害者の性と結婚の問題を考察することにした.
Copyright © 1982, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.