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Ⅰ.はじめに
人口の老齢化は西欧諸国,日本などに共通してみられる現象であるが,とりわけわが国においては,その傾向が短期間で急速に進んでいるという特徴がある.具体的数字にあたってみると,65歳以上の老齢人口の割合は1970年には総人口の7.1%であったものが,1975年には7.9%と上昇し,2020年には推定実数2,616万人,15.8%に及ぶであろうと推定されている1).4人集まれば,1人は60歳以上という状況は,そう遠い未来のことではない.
このような短期間の急速な人口の老齢化は,急速であるがゆえにその対応もままならず,多くの社会問題を提起することになる.老人を扶養するものばかりでなく,当然のことながら当の老人本人にも,実生活面でも心理面でも種々の困難な事態が出現することになる.
また,現在の技術,能率中心の時代思潮,核家族化,生活意識の変化などは老人にとって快適な社会環境を生みだすとはいいがたい.むしろ現在の多くの老人にとっては負担の方が大きいのが実情であろう.
このように,一方では老齢人口の相対的,絶対的増加.一方では老人にとって必ずしも受け入れ易いとはいえない環境の変遷は,種々の精神の病理現象を生み出している.したがって老人の情神衛生面に対する配慮は,現在もそして将来にわたってはますます要求されるであろう重要なことがらである.
老齢期は,老化そのもの,あるいは各種疾患の頻度からみて身体的な面で当然種々の障害が頻出する年代であるが,精神医学的にみても同様その精神病理現象の出現し易さゆえに実に問題の多い世代である.
しかも,身体疾患と精神医学的障害の合併もきわめて多く,老人に対する医療従事者にとっては,老人の心のありかたを把握しておくことは,必要欠くべからざることがらである.老人医療こそ,心身相関の総合された視点に立つ医療がもっとも必要とされる分野である.
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