特集 老人の保健問題
老人の精神衛生
金子 仁郎
1
,
市丸 精一
1
1大阪大学医学部精神神経科
pp.483-491
発行日 1963年9月15日
Published Date 1963/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202711
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1.緒言
近年の治療医学の進歩と社会の衛生状態の改善は,寿命の著るしい延長をもたらしている。0才における平均余命は,昭和30年には男子は63.6年,女子は67.8年であったが,(第10回生命表による)昭和35年には男子は65.3年,女子は70.2年となり,50〜54才における平均余命は男子で22.3年,女子で25.8年となっており(第14回簡速静止人口表による)まさに"人生70年"年の時代がやって来たことを示している。これに加えて出生の減少により,老人人口は絶対的にも,相対的にも,急激に増加して来ている。しかもこの傾向は今後ますます著るしくなることが予想されており,老人問題は社会の各方面で大きな比重を占めている。
医学においても,今日成人病対策ということが大きくとり上げられるに到ったが,その中心をなすものは脳卒中などの中枢神経系の血管障害,がんその他の悪性新生物,心臓病の三者で,この三者は老年者の死因の大部分を占めており,人口動態統計によると,昭和35年の50〜60才の死因別死亡割合では,男女ともこの三者を併せると60%を超えている。したがって成人病対策としてはこの三者に焦点がおかれ,世人の関心が高いのも当然である。しかし老人の幸福をおびやかしているのはこの三大成人病だけではない。幸福な人生は身体的健康のみで支えられているのではなく,同時に精神的にも健康でなければならない。
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