医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・10
老人衛生
高橋 英次
1
1東北大学衛生学
pp.99-101
発行日 1960年2月15日
Published Date 1960/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202243
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「老人衛生」についての分担をお引受したが,実際には小生の処では「老人衛生」という項目の講義を行つていない。講義は医学部1年の冬から第2学年末までの衛生学の時間を担当しているわけであるが,内容は所謂環境衛生と栄養及び食品衛生,それに産業衛生に若干ふれうる時間的余裕しかない。
母子衛生乃至小児衛生に対して老人衛生の項目があつてよいわけであるが,「老人衛生」という項目を設けること自体についても多少の疑義がないわけではない。何故ならば所謂老人病は老年に達して発病することが多いとしても,実際にはその基礎が老年に達するまでの間において既に築かれていることが多いからである。例えば高血圧にしても脳卒中・心臓疾患にしても,若年時からの衣食住や生活習慣等の如き生活条件によつて漸進的に醸成される場合が多い。もちろん脳卒中や心臓疾患における発作の誘因となるものを防ぐことは老年においても必要であろう。しかし一旦硬化を来した動脈が又元の若い状態に戻ることは考えられない。少くとも現在の医学では甚だ困難である。高血圧は薬剤の使用によつて,一時的に血圧を下げることはできようが,生活がかなり規制されることとなつて,社会生活における活動能力もかなり阻害されるものと解釈しなければならない。
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