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はじめに
人は,生れた直後には生体をとりまく環境に対する対応力がほとんどなく,事故や疾病に会う確率が高い.その後学習により,あるいは生体の防禦機構や調節機構の発達により,生体をとりまく環境に対する対応力は増す.このため事故や疾病に会う確率は少なくなる.しかしこの時機をすぎて,学習する能力の低下,記憶保持の低下,生体の防禦機構や調節機構の機能低下により,環境に対する対応力は再び低下するようになる.このため事故や疾病に会う確率が再び増加する.図1はこの関係を模式的に示したものである.
生後より乳幼児期には事故や疾病により死亡する確率は高いが,社会的・医学的環境の整備により現在先進国ではこの時期の死亡率をほとんど0にまで低下することが出来た.これは一方では新生児・乳幼児期の疾病が,予防医学の発展により予防され,また治療医学の進展により治療されうるようになったこととともに,周囲の状況を分析して考慮する習慣がなく反射的行動要素の大きい乳幼児の保護施設や保護体制が整ったためであろう.老人に対しても,老年医学や老年社会学の進展に努め,老人の環境への対応力のおとろえを防ぎ,同時に疾病や事故にあう可能性を低下させるよう努力する必要があろう.このためには老人の生理機能の特徴を明らかにすることも重要なことであろう.
生理学の分野で近年急速に興味をもたれて来ている分野の1つは発生期―胎児より新生児―における生理機能の変遷である.現在興味ある新しい所見が各専門分野で報告されつつある.老化の経過は,発生の逆の経過ではなく,独自の老化過程をとる.したがってこの老化にともなう生理機能の変遷もまた今後興味をもって研究される主題となり,多くの研究者の研究の対象となるものと期待される.ここでは1)「老化と生理機能」研究の特徴と困難点,2)老人の生理機能について概観しておきたい.この老化と生理機能に関する研究をもとにして,老化にともなう生理機能の変化がどのように寿命または老人病の発症に影響しているか,老化にともなう生理機能の変化はどのような根源的な老化機構とかかわり合っているか,老化にともなう生理機能の変化はどのような要因―遺伝的要因ならびに環境要因―によって修飾されうるか,などの問題が明らかにされるものと期待している.
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