The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 13, Issue 2
(February 1979)
Japanese
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はじめに
医学の分野のうちで,「正常値」あるいは「正常範囲」という概念に最もなじみの深いのは臨床検査においてではなかろうか.とは言っても,たとえば血液化学成分の正常値の重要性が認識されたのは比較的近年のことである.それまでは,化学検査データは理学的所見を主軸とする診療の補助的手段として利用されるにすぎなかった.正常とは大きく隔った異常値のみに注目すればよく,定量的解釈というものが必要なかったからである.しかし検査室での分析技術の向上,精度管理などの多大な努力により,信頼性の高いデータが医師に提供されるようになると,正常に近いところでデータを読むことが可能となり,また同じ異常の範疇ではあってもその程度が問題とされるに到り,「正常値」が異常を識別するための基本的尺度としてきわめて重要な役割を果すことが認識されるようになった.
筆者はもともと,統計解析を専門とする,いわゆる「統計屋さん」であるが,2年半ほど前より臨床化学検査室の方々とおつきあいをし,正常値や検査室の品質管理についての議論に接する機会を得た.そんな関係で今回「正常値」について何かまとめるように依頼をうけたが,その間に身につけた物の見方は統計的であり,生化学的であって,リハビリテーション医学の分野でのさまざまなテストやその評価において正常値を論ずるにはあまりにも浅薄である.しかもリハビリテーション医学のテストにおける異常の認識の多くは直観的,官能的であり,現在の生化学分野で論じられる「正常値」という概念がそのままあてはまるとは思えない.そういった全くの部外者が「正常値」という語から何を連想するのか御披露し読者諸兄の御叱正をあおぎたく本稿をまとめた次第である.
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